2011年を振り返って

今年の一番は何と言っても3・11の大地震
たまたま家に居た私と息子は立っていられず、靴を履き、財布を持ち、寒くないような服を着、急いで部屋を出た。
部屋の扉は下についているフックに掛けて出た。エレベーターホールはシャッターが降りていた為階段で下りた。
鉄製の非常階段は揺れながら建物本体と激しく衝突を繰り返していた。
その音が恐怖心をあおり必死で地上まで降りたが、そこはしゃがみこんで様子を窺う人たちでいっぱいだった。
この建物は折れる、避難生活になる、水、トイレ、のある一番近いところは、太田黒公園。
そう思って公園まで。
ここはたくさんの木々に覆われているためか、中に居る人々は何事もなかったような顔をしていた。
トイレで用を済ませしばらく様子をみていた。
20分ほどそこにいたが、長い揺れはおさまったので、再び我が家に帰り階段で部屋まで着いたその時、再び強い揺れ。
今度は完全防寒、一番近いこの建物のコンビニで水分調達しさっきの公園へ。
今度は小一時間ほど様子を見て帰宅。二回ともフックしておいた扉が外れていた。
本棚の本が散乱していただけで、実害はなかったが、もし東西の揺れではなく南北に揺れたら、タンス、食器棚、冷蔵庫などが倒れ大変なことになっていただろう。
その後マスコミなどで長周期振動のことを知ったが、ビルの真ん中あたりはダメージが大きいらしいと。
一階下はエレベーターホールに段差ができてしまった。
我が家も玄関の壁紙は縦方向に裂けた。
その後車で都心へ出たが、8時間車で缶詰めだった。
トイレもできず車にあったわずかな飲料水とお菓子だけ。
東京直下がきたら車は絶対使ってはいけないと肝にめいじた。
被災された方、被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げます。

音楽では、SAX奏者の寺久保エレナと2度一緒になった。
彼女は今年高校を卒業したばかりの18才。
日本から出た初めての天才ジャズプレイヤーではないだろうか。
1回目は日比谷公会堂で彼女はエリック宮城(TP)のビッグバンドのゲストとして吹いた。
チェロキーという急速調の曲をいとも簡単に、流麗に、尚且つ野蛮にプレイしたのを見て、天才はいると確信。
アメリカの歴代ジャズミュージシャンでも最年少記録はDRのアンソニー ウィリアムスくらいじゃないだろうか。
たしか彼がマイルスのとこでプレイしたのは16才だったはずだ。

クラシックの世界ではときどきいるらしいが、ジャズとなるとあまり聞かない。

ジャズにはスウィングという厄介なリズムがついてまわるので、おいそれとはいかない。
楽器の習熟度に加えて、ジャズ語法ともいうべきアドリブで勝負しなくてはならない。
先の曲は1950年代TP奏者のクリフォード ブラウンによってレコーディングされた、1分間に4分音符で300を超える速さ。
これは1拍0・2秒、1小節0・8秒という中でワンコーラス64小節の曲をコード進行に従ってアドリブしていくわけである。
ワンコーラス51・2秒。

出来る人と出来ない人と出てくる、当然だ。
それを寺久保エレナは軽々とやってのける。
日本人では初の奨学金つきの特待生で、現在アメリカのバークレイ音楽学校で本場のジャズを学んでいる。
もう1回はモンタレージャズフェスティバルイン能登で、今度は自分のバンドでのプレイ。
リラックスした自信に満ち溢れた素晴らしい演奏だった。
また夜行われた打ち上げでは、18才の女の子らしい可愛らしい一面も見た。

また、ロンとやるのはいつも楽しい。
アメリカで会うのは楽しみだ。と言っていた。
ロンとはあのロン カーターのことだ。

近年ではピアノの上原ひろみなどがチックコリアとデュオで武道館を満員にしたり、若い才能のある人がたくさん出てきている。
その中にあって寺久保エレナの才能、実力、センス、群を抜いている。

最後に私がアレンジ、プロデュースしたカンツオーネ歌手の佐藤重雄が、心筋梗塞により11月21日に亡くなった。
私のアレンジ、曲想などを非常に気に入ってくれて、今回のCDもとても満足してくれて、イタリアに行こうとしていた矢先だった。

震災により彼の実家のスーパーは大きな被害を受け、彼を後援する同級生も伊達地区のリンゴ園が放射能により全滅、といった具合だった。
震災と原発、両方の影響を受けた。

佐藤氏も5月にライブを予定していたが震災によりキャンセル。
7月にもイタリアでコンサートの予定だった。
また亡くなる前に、次の予定スケジュールなどをミーティングする約束を12月2日にしていて、イタリアで発信することを心待ちにしていた。
前向きに自らの音楽をしようとしていた。

慰めにもならないが、彼の人生においてお気に入りのアルバム”SAKEYO”をリリースできたことがせめてもの救いになったと信じたい。

心よりご冥福をお祈りします。

2011・12月31日       熊谷